※パラレル







「…うぁーっ!と。やっと終わったよ…」

伸びをして、終わったばかりの山積み書類を見る
この作業は、かれこれ二時間くらいしたであろうと思う

「さて、そろそろ帰るか。暗いし」

ガタンと、椅子を引いて立ち上がる
しかし、勢いを付け過ぎて、椅子は大きな音をたてて倒れてしまった
その音に思わず肩を竦めて、次には苦笑いをするしかなかった

「…誰も居なくて良かったな」

宿直の先生くらいしか居ない静まり返った学校
昼間なら、誰かが廊下の外で声を殺して笑っていた事だろう
ゆっくりと、椅子を元に戻して、息をついた

「…さすがに、ティアも帰ってるよなぁ…」

窓の外を覘いて、大きく溜め息をつく
暗くなって、もうかなり時間も経っている
生徒など、体育会系の生徒くらいしか残っては居ない
校舎に残っている生徒は、自分くらいだろう

「…ルーク」

いきなり、声をかけられて、ビクリと体を震わせる
恐る恐る振り向くと、そこにはスーツに白衣…といった服装の男性がいた

「…ジェイド先生」

ジェイド、と呼んだこの人は、化学教師である
変わり者、と生徒の中で言われている人物だった
しかし、こんな変わり者といわれる人が化学に関しての第一人者であるのだから驚くのだが
その人がなぜかこの場所―生徒会室に足を運んでいた

「…何か、用ですか?」
「…えぇ。少し呼び出しに、ね」
「…呼び出し?俺を、ですか?」

尋ねるように首を傾げると、ジェイドは首を縦に振った
そして、部屋へと入って来て、窓の傍へと歩み寄る
何をするのか、とルークはジェイドを見やる

「…あそこに、待っている人が居ますよ」
「…図書室?誰が?」
「行けば判ります」

指を差されたその場所は、図書室
確かに、その場所には誰かが居ることを裏付けるかのように明かりが灯っている

「…わかりました」

頷いて、ジェイドをみると、満足したように笑みを浮かべ去っていった

「…誰が俺を待ってるんだろ…」

思い当たる、と言えば同じく生徒会であり、生徒会長のアッシュ
もしくは、中学部で家の近いアニスくらいだ
しかし、二人とも帰ったところを自分は確認している
戻って来ているならば、別だが




「…もしかして、」




ふと、その答えに辿り着いて、足早になる
走ってはならないことが、一番面倒だとおもいながら

「……―ティア!」
「…ルーク」

バンッと強引に扉を開け放ち、中に居るであろう人の名を呼ぶ
案の定、思った通りの人がそこに居た
ブロンドの、さらさらした長髪
出で立ちは、少し儚いようなその女性―ティアだ

「…帰ってなかったのか」

問うように言うと、ティアは笑う

「えぇ。生徒会の仕事、終わったの?」
「終わったけど…何で」

なぜ残っていたのか、と言おうとして、その先が出てこない
足早に歩いていた反動で、息が切れて、咽てしまう
慌てて、ティアは駆け寄って来て、背中を擦る

「…ありがとう。でもなんで帰ってなかったんだよ。遅くなるの、解ってただろ?」

落ち着いたところで、改めて訊く
ティアは、頷いて笑う

「…雨が降って来ていたから。傘、持って来ていないでしょう?」
「…雨?」
「もうこんなに暗いから解り辛いけど、降ってるの」

窓の方を差して、ティアは言う
確かに、こんなに暗いと解らないだろう
けれど、

「…じゃぁ、そろそろ帰りましょうか。家の人が心配するわ」
「…あ、あぁ」

下駄箱のある、玄関ホールに下りて来ると、ザー、と鳴る雨の音がしていた
暗く、光の無い空
外からは、生暖かくも冷たくも感じる嫌な風が吹いていた

「…雨、激しくなってるわね…」

激しさを増したのであろう雨は、今や中の床を濡らしている

「…ゴメン」
「…どうして謝るの?ルークは何も悪くないわ」
「でも、ティアは俺を待たなけりゃ、こんな大雨の中帰らなくても良かっただろ」

ルークは沈んで、俯いている
ティアは、そんな風な顔をさせる為に待っていた訳ではないのに、と思う

「…ルーク」
「……―!」

呼ばれて、顔を上げる
そこには、信じられないくらいに近いティアの顔があった
驚いて、ルークが固まっていると、ティアが離れる




「…私は好きで待ってたの。だから、これでお互い様」




全くの不意打ちだし、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かった
何をされたのか、と考えれば、顔を近づけられた際に、唇に触れた暖かな感触
キスをされたと気付くまで、しばらくかかってしまった

「…ティア、今」

やっと絞り出した声は、少し小さく
ティアは、既にルークに背を向けている
尋ねるように言うが、振り向く気配はない

「…ティア?」

不思議に思ってティアの顔を覘くように前に回り、屈む
しかし、ティアは顔を見せようとはしない

「…顔、どうかしたのか?」
「なんでもないわ」

ルークが心配して尋ねるが、ティアは首を横に振る

「じゃあなんで顔見せな―」

言いかけると、ティアはルークの横を通り抜けた
そして、

「―だから、何でもないから!早く帰りましょう!」

走り出す
しかし、靴を履き替えていないし、すぐに止まって靴を履き替えて
また、走り出そうとする


「って、ティア、床滑るから走らない方が良い―」


言うが早いか、ティアは足を滑らせた―というよりは慌て過ぎて踏み外した
ルークは、無意識化でティアの手を取り、引き上げて

「…っ、ティア、大丈夫か?」
「…え、えぇ。ありがとう」

そうは言うものの、まだ顔は見えない
ルークは、何かしてしまっただろうか、と思う

「ティア、顔見せて」
「嫌よ」

顔を見ようと、ティアの方へと顔を近づける
しかし、ティアは断固として顔を見せようとはしないのだ
あまり、強行手段には出たくはないのだが


「…ティア」
「きゃ…」
「……顔が真っ赤だけど」


顎を押さえて、こちらを向かせると、ティアは顔を林檎のように真っ赤に染めていて
何事かと思い、ティアを見つめていると、ティアがうっすらと目を開く
その顔が、どうにも可愛く見えてしまって、思わずそのまま口付けた

「…―ん、ルーク…ちょっ…」
「…ティア、可愛過ぎ」
「…ばか」

ますます赤い顔をもっと紅くして、ティアが胸板を叩いた
唇を離して、言うとティアは抵抗の意を削がれたのか、小さく呟いた

「…このまま持って帰って良い?」
「…それは止めて」
「えー」
「えー、じゃないわ!私も早く帰らないと…」

離れようと、ティアがルークの胸板を押す
しかし、そう簡単に放してくれるはずもなく













「好きで、待ってたんだろ?」
















「う…」

図星、というか真実なのだから返す言葉もなく
抵抗の意は揺れ動く


『校内に残っている生徒は下校してくださーい』


いきなり、校内放送が鳴り響いた
せっかく出来上がっていたその場の空気が、一気に壊される
ルークは行き場のなくした手を放さざるおえなくなり、ティアはやっと解放された

「…仕方ない、帰ろうか」
「そうね」

ルークも靴を履き替えて、立ち上がる
ティアは体制を整えて、傘を手に取る

「…ティア、腕組んで」
「え?」
「ティアが濡れるだろ。だから出来るだけくっついて濡れないように、さ」

ティアが傘を広げて、近付いた所で、ルークが言う
それに少し驚いたようにティアがルークを見つめる

「…ありがとう、ルーク」

ティアはすぐに、柔らかく微笑み、ルークの隣に並んだ
ルークは傘を自分からティアの手から受け取った
その行動にもティアは笑みを絶やさず、ルークの腕に自分の腕を回した





その後、仲良く下校する二人の姿があった





END?




  *おまけ*

「…にしても、さっきの校内放送の声…」
「…どうかしたの?」
「…いや、やっぱりいい」
「そう?」

「…やれやれ、世話を焼き過ぎましたね」
帰っていく二人の後姿を見ていた人が一人いたのだった






END



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