ほら、もう欠けがいのないくらい

私は、彼方を愛してる




「…やっぱり、ティアには隠し事は出来なかったな」

自嘲気味に、ルークは笑って見せた
そんな余裕など、本当はないだろうに
自分自身が、いつ消えてしまってもおかしくはない状況下で、こんな風に哀しみを含んだ笑みは、とてもじゃないが自分には出来ないと思う
多分、笑わずに冷たい言葉を吐くだけだろう

「ルーク…」

そう思いながら、哀しさに顔を歪めた
さっきまで、弱音を吐いていたのに
ついさっきまで、泣きそうに顔を歪ませていたのに
痩せ我慢か、既にその面影が消えているが、体は少し震えていた

「…大丈夫だよ、ティア。俺はまだ消えないんだから、方法を探して―」
「―…ばか、震えてながら言っても、説得力ないわよ…」

見るに堪えかねて、ルークを優しく抱く
ビクッと体を強張らせたものの、ルークは抵抗を示さなかった

「…分かってる、もう分かってるから。そんなに辛そうに笑わないで、ルーク」

ルークの顔は見えない
しかし、まだ震えている体から、心情は不安定だと見て取れた
恐くない、筈がないから

「……笑ってないと…くじけて、泣いてしまいそうになるから…」

しばらく、黙っていたが、沈黙を破るように、ルークが口を開いた
声音は、平静を装うように穏やかで
ゆっくり、身を離すようにルークは私の腕を解いた

「…まだ、震えてるわ」
「臆病だろ、俺。死ぬこと、覚悟出来てる筈なのにさ…やっぱり、いざとなると…」

ルークはやはり泣きそうな笑みを浮かべながら言った
見ていられないと思ったけれど、目を反らす事すら出来なくて
こんな大事な時に、人は言葉すら失ってしまうなんて
――無力、としか言えない




「(こういう時、どう言えば良いのかしら…―)」




自分の無力さが身に染みて、痛い
何の外傷もないのに、胸が痛みを訴えている
こんな無力な自分を、責め立てるかのように

「…でも、さ」

考え事をしていたら、いきなりルークが言う
何を言うのかと私が顔を上げると、今までにない穏やかな笑みを浮かべていた

「…俺は、消えるかも知れないけど…俺の消滅は、皆の、ティアの未来を切り開くためだって思えるから」
「……!」

ルークが笑う
どうしてそこで、平然としていられるだろうか
堪え切れず、ルークから顔を反らした
泣きそうになっているだろう、自分の顔を見られたくなかった

「…だから、」

と、ルークは顔を反らしたことは気にせず、続ける
ある意味、好都合だったけれど

「…ただ、忘れないでいてくれないかな、ティア。俺のことを…いや、俺が確かにこの場所に生きてたってことを、さ…―」

私が、泣いてしまいそうだからこその配慮だろうか
その声音は優しく感じられた
今、顔を見られたら、多分泣いてしまっただろう

「―…えぇ」

忘れられる筈がないじゃない
だって…―




「(もうかなり依存しちゃってるのね、私)」





既に、欠けがいのないくらいに、彼方を愛してるから










END




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