「…そうですか。やはりルークは行ってしまいましたか」

と、呟くように言ったのは此処―グランコクマにある軍の一室―で執務をしていたジェイド。その表情は、あまり変わった様子もなく、書類を見つめている。
しかし、声色がどことなく沈んでいるように聞こえるのは、ただの気のせいなのだろうか。

「気付いてたのか」

部屋の中に居て、事のあらましを話し終えたガイが言う。

「えぇ。ルークはわかりやすいですからねぇ。
帰ってきてから、少々おかしいとは思っていました。
妙に落ち着き払った様子といい、ティアを見る時の表情も…愛しい人を見ていると言うより、哀しげで、どこか申し訳なさそうにみていましたし。それで、なんとなく」
「気付かなかった…」

呆れたように、肩をすくめるジェイド。しかし、その表情には、呆れの色は見られない。むしろ、哀しむような、自責の念を含んでいるようにさえ見えた。
ガイが考え込むように呟くと、ジェイドは微笑む。

「仕方ありませんよ。人は、その時の感情に左右されて、時に周りが見えなくなってしまうこともある。
私も、ルークの行動に気付いたのはバチカルにあなた方を降ろした時です」

すくめた肩を戻し、ジェイドはまた机に向かう。そこにある書類に一見すると目を通してはいるように見えなくもないが、目は文字を追ってはいない。

「それだけでよく、ルークが消えようとしてるってわかったな」

疑問に思ったことを尋ねると、ジェイドは少しだけ目をガイに向けた。
ガイはその瞳の異様なほどの空虚さに、背に寒気が走るのを感じた。

「…ルークの性格を考慮すれば、おのずとわかりますよ」

一度、目を閉じてジェイドは呟く。
焦点の合わない目を、書類に向けて。




「それに、一度は死んでしまったアッシュに、自分や、自分のことを想ってくれている人達を犠牲にしたとしても、
奪ったしまった七年という時間を返すことが出来るなら…私がルークと同じ立場に立っていたとすれば、私も同じ選択をしたでしょうしね」




ジェイドにしては珍しく、ルークをフォローするように言葉を紡いだ。

「…そう、かもな」

ガイはその言葉に、ゆっくりと頷いて。
確かに、自分も同じ立場に立っていたなら、同じように、たとえ愚かだとわかっていても、ルークと同じ選択をしただろう。

「最終的に、そういう結果を選んだのはルークです。私達に、それをどうこう言う権利はありません」
「………」
「…ですが、」

ジェイドが、何かを言いかけて言葉を止める。
何を言いたいのかとジェイドを見ると、意図的に言葉を止めたようで、書類を見ていた顔を上げて、この部屋にはひとつしかない窓へと視線を向けていた。

「ルークにそうさせてしまった責任は、少なからず私達にもあるのでしょうね」

どこか、遠くを見据える瞳。
その視線の先には、自分の未熟さ故に死なせてしまった者達が―ルークが映っているのだろうか。

「…そうだな」
「だからこそ、私達は覚えて置きましょう。レプリカであり、私達の仲間である、ルークのことを」
「…あぁ」

ガイも、同じように窓の外へと視線を向ける。
そこにはもう、親友であり、仲間である、ルークの姿はもうないけれど。
自分達が覚えていれば、ルークが本当の意味で死を迎えることはない。
たとえ、もう逢うことが出来ないのだとしても…自分達が生き続ける限り、ルークはずっと自分達の心の中で生き続ける…―














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