太陽が、完全に姿を現し、辺りはその光に照らし出された。セレニアの花はいっそう白く、その姿を誇示している。
ティアは、細めていた瞳を光に慣れたことを確認し、開く。
目の前には変わらず、セレニアの花と『ルーク』とエルドラントと海と、今し方昇ったばかりの太陽が映っているだけだ。違うのは、目に映る『ルーク』が自分の知る『ルーク』ではないことだけ。

「…アッシュ」

目の前に佇む、その人の名前を呼んだ。
その人は名前を呼ばれて、ゆっくりと目を開ける。

「……あいつは、消えたのか」

と、第一声。
ティアは、その言葉に首を横に振り、呟く。

「ルークは、消えてなんかないわ」

その言葉の力強さに、アッシュは少し驚いたような表情をしたあと、頷いて。
ティアはアッシュのいる場所まで歩いていき、アッシュを見上げる。


「ルークが言ってたわ。消えるんじゃなくて、ローレライと同化したから見えなくなるだけだって。これからは、ずっと見守っていてくれるそうよ」


少し、自分に言い聞かせるような口調。
しかし、浮かべた笑みはとても穏やかに、それでいて少しだけ嬉しそうに見えた。

「…辛くは、ないのか」

アッシュが口を開く。その声色はどことなくそれを言うのを憚るような口調。
気遣っているのだろう、彼なりに。
ティアはそれに苦笑しながら、重い口を開いた。




「……辛くない、と言えば嘘になるわ」




割り切れるほど物分かりが良い方ではない。それが、大切な人ならなおのことだ。
ティアは、ゆっくりと目を閉じ、首を横に振った。

「今ならまだ、間に合う」

自分が残ればそれができる、とでも言いたげな表情。
それにも、ティアは首を横に振る。

「いいえ、いいのよ。今更ルークを呼び戻すなんて、我が儘以外のなんでもないもの。ルークは、消えないと言った。それだけで、本当にそれだけで十分よ…」

語尾になるにつれて、少しずつ弱まる声音。それでも気丈に振る舞おうとするのは、もはや彼女の意地でしかなかった。
しかし、そこまでして涙を見せようとしないのはどこで見ているのかわからないその人を迷わせることのないようにしたいからなのだろう。

「そうか」

アッシュはもう何も言わなかった。
これ以上何を言っても彼女は考えを変えないだろう。
たとえ何があっても。

「…さ、帰りましょうか。ナタリアにもあなたが戻ってきたことを知らせないと」
「…あぁ」

ティアが少し振り向き加減に言う。
アッシュも、それに頷いて歩みを進めた。

「(……これは)」

バサリと、音を立てて冊子が落ちた。
自分が持っていたのか、そう思い拾い上げる。それは、

「…どうかした?」

アッシュがなかなか来ないからか、ティアがまたこちらに来て。
首を傾げ、拾い上げたそれを見る。

「おまえ宛だ」

開いていたページを、それとなく閉じて差し出す。ティアは見覚えのあるそれを不思議そうに見つめた。

「…ルークの、日記…?」

アッシュは小さく頷いて。

「最後のページを開いて見てみろ」
「…っ…!」

アッシュが、日記を指差して言う。
ティアは半信半疑に最後のページを開いて。そこに書かれている文章に、視界が歪んだ。

「…俺は先に戻っている。おまえはゆっくり戻ってくればいい」
「………っ」

えぇ、と言いたくて、でもその声は掠れていた。
渡されたそれ―ルークが書いていた日記―の最後のページを開く。
そこに書かれていた言葉に、内容に、ティアはただただ驚き、涙するしかなかった。
書かれていた文面は、まるで手紙。返事を出せば、答えが返ってきそうな、そんな文章。
だが、ティアを驚かせ、泣かせるには十分すぎるくらい、哀しく、優しい言葉の数々で。

「…ルーク…っ」

ティアは、拭っても拭っても溢れてくる涙を隠すように顔を手で覆った。
それでも隠しきれずに、涙は指の間を流れ、ルークの日記に滴り落ちて。

「…なんで、こんな…っ」

優しい言葉を書けたのだろう。
より、苦しかったのは、辛かったのは、彼の方のはずなのに。


「っ……ばか……私も、よ…」


もう返事のこない言葉を、静かに呟いた。
傍にいるであろう、彼にむかって。


























『―…ティアへ。

ティアがこれを読んでる頃には…俺はそこに―…ティアの隣にいないだろうから、ここに記しておく。
今までずっと、傍に居てくれたこと、感謝してる。ありがとう。
この日記は俺が"ルーク"として生きてきた証だ。この日記はティアが持っていてくれ。
俺は確かに存在していたと、俺はティアの生きるこの世界を守っていくと、いう証として。
たとえこれからは姿が見えなくても、傍に居るって"約束"するから。

…―大好きだよ。


       ルーク・フォン・ファブレ』








もうあなたからの声はこちらには届かないけれど、
もうあなたに触れることはできないけれど、
どうか、この言葉だけは届いて。








…―大好きよ、ルーク

















私は、これからあなたの分まで生きるから。













*

テンション低くてごめんなさいUu
これ書いてるとき軽く鬱はいってました。ほんとにすみません。
でも、アッシュが帰ってきたらティアは一生一人身でいそうな気がしないでもないんだ。
とりあえず、この話で誰か何か思っていただければ幸いです。

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