「…結局、言えなかったな…」

独りになった部屋の中で、小さく呟き、ため息をついた
何を、というのは言わなくともわかるだろう
ティアに、自分がアッシュと入れ代わってしまうという事実を、だ
あの後、しばらく抱き合ったまま時間が過ぎ、沈黙していた
その間、ルークはずっとティアに話すタイミングを伺っていたが、無情にも言葉は出て来なかった
そしてそのまま、陽が傾き、ティアは自分が疲れいるのではないかと言った
今日はゆっくり休み、明日またナタリアや他の人に生きて帰ってきたことを報告すればいいと、ティアは屋敷を出て行った
引き止めれば、ティアは残ってくれたと思うが、そんな言葉さえ出なくて

「…バカだなぁ…今更、後悔しても遅いのに」

まだ、追いかければアルビオールに乗り込む前に追い付けるだろう
しかし、そうしても、今の自分がティアに何を言えるだろうか

「………っ」

―いや、まだ何も言ってない
ルークは部屋を、屋敷を飛び出し、ティアが向かったであろうアルビオールの下へ向かった





「……私、なんであんなこと思ったのかしら…」

昇降機を降りてすぐの、少しだけ広い、バチカルの街を見下ろせる所に佇み、呟く
あんなこと、というのはもちろん先程ルークが消えそうに思ったことだ
すでに二度目になる
しかし、なぜそう思ったのか
前に消えそうになったことが、まだ引っかかっているのだろうか
それとも、他の理由でもあるのだろうか

「…もしかして…」

アッシュや、イオン様のように、ルークも消えてしまう?
ふと、頭をよぎる不安
しかし、ティアは首を振った

「そんなこと、ないわよね。ルークは、帰ってきたんだもの」

自分に言い聞かせるように呟く
しかし、言い表せない不安が消えない
そんな不安が、靄をかけたように思考を止めてしまいそうになった
慌ててまた首を振り、不安を払う
明瞭になった思考が、瞳から映し出される夕焼けに染まるバチカルの街並みを、より朱く鮮明に見せていた

「…ティア!」

ふと、背後から聞こえる声
聞き覚えのあるその声に振り向くと、そこには先程まで一緒にいたルークが、降りてくる昇降機に乗っているのが見えて
待ちきれないのか、降りてくる昇降機の中で足踏みし、降りきった昇降機の扉も半場こじ開けるように出て、走ってきて
昇降機に乗るまでにも走っていたのか、息を切らしていた

「よかっ、た。もう、アルビ、オールに、乗っちゃった、かと、思っ」

息を切らしながら、ルークは話そうと言葉を紡ぐ
しかし、息も絶え絶えに話そうとしても、言葉が続けられず

「ルーク、とりあえず息整えて」

ティアはルークの横へ行き、落ち着くように背中を撫でて
ルークは言われた通りに深呼吸して息を整える

「……あ、ありがとう。もう、大丈夫」

ひとしきり深呼吸して息が整うと、ルークは背中をさするティアを制した
ティアが手をのけたあとも、ルークは少し深呼吸していた

「…どうしたの? そんなに息を切らして」

ルークの呼吸が落ち着いた頃を見計らい、ティアは尋ねた
ルークは訊かれると予想していたのか、苦笑ともとれない笑みを浮かべて

「ティアに、言いたいことがあって」

その笑みを変えぬまま、ルークは言った
ティアは、不思議そうに首を傾げて

「言いたいこと?」
「あぁ」

ティアが尋ねると、ルークは頷いた

「何?」

首を傾げると、ルークは苦笑混じりに口を開く

「…明日、夜が明ける前にタタル渓谷に来てくれないかな」
「タタル渓谷に?」

ルークの言葉に、いっそう首を傾げた
聞き返すと、ルークはまた頷いて

「話したいことが…いや、違うな。話さなきゃならないことがあるんだ」

その言い回しが、何かを彷彿させるようで、ルークが遠く感じた
また、不安が頭をよぎる
しかし、それさえも振り払う
そんなはずはない、と自分に言い聞かせる
この先に起きることが、自分には関係ないかのように

「……わかったわ。明日の夜明け前にタタル渓谷に行けばいいのね?」
「出来れば余裕を持って」
「えぇ」

ティアが頷くと、ルークは微笑む
その笑みに、ティアは不安が消えていくのを感じ、同じように微笑んだ





「(もう後には、退けない)」

自分の部屋に戻り、扉を閉めるとその閉じた扉に背をもたれかけて思う
ティアを、自分が消えてしまう瞬間に呼んだ以上、もう偽ることは出来ない
自分が消えてしまうことを、思っている全てを、伝える必要がある
たとえ、それがどんな結果を生み出してしまうのだとしても

「…また、ティアを泣かせるかなぁ…」

気丈なティアのことだ
で涙を見せるかはわからないが
それでも、哀しませるのはわかりきっているから、むしろ泣くか恨むかしてくれた方がいっそ諦めがつくのに、と思う

「……ごめん、な…」

こんな別れ方しか出来なくて
こんな答えしか出せなくて
自分の不甲斐なさに、胸が痛んだ























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