「ルークです」

ルークは両親の居る部屋の前に立っていた
久し振りの帰還。緊急する自身を奮い立たせ、扉を叩いた

「入りなさい」

すぐに、低い、男性の声が中から聴こえた。それは紛れもなく、自分達の父の声だ
その声を聴き、ルークはゆっくりと扉を開け中へ入る
そこには自分の事を見つめる両親の姿
父であるファブレ公爵はいつも見せる厳しい表情はなく、息子の帰還を喜び、顔を綻ばせている
母は息子の顔を見るなり、目に涙を浮かばせ、ルークに歩み寄り確かめるように頬に触れた
その、触れた頬から伝わる体温に、安心したのか余計に涙が零れて
ルークは最初、どうしたらいいのかわからずに立ち尽くしていたが、すぐに、母の頬を流れる涙を拭った

「本当に、ルーク、なのですね」
「はい。心配かけて、すみませんでした」
「よい。こうして帰ってきてくれたのだ。何も、言うまいて」

父の言葉に、ルークは息が詰まりそうな錯覚を覚えた
これから、話そうとしていることが、どれほどこの二人を哀しませるものか
こんなに喜んで、母に到っては泣いてくれさえしているというのに、この歓喜の涙さえ、哀しいものに変えてしまう
二人に話すことを、ルークは躊躇い。しかし、話さなければならない
自分には時間がない

「父上、母上」
「なんだ?」
「…俺は、」

話を切り出すため、二人を呼ぶ
二人ともが不思議そうにルークを見て
その視線に、ルークはいたたまれないような感情さえ覚えた。だが、それすら振り払うように一度目を閉じ、再び二人を見る

「…俺は、この家に来ることが出来て幸せでした」

いきなりのことで、二人はルークが何を言ったのか理解出来なかったようだ
最初、目を丸くして、その後、訝しげな表情を浮かべる

「どうしたんだ、急に」

聞き慣れない単語に、また、ルークのらしくない態度に、二人ともがルークを見て
ルークは苦笑しつつ、口を開く

「…この先、俺は在るべき所に還ります。これから俺が話すことは…誰にも言わず、二人の心に留めて置いてくれますか?」
「ルーク、何を言っているの?」

ルークの言葉に、二人はますますわからない、という表情をする
ルークは、そんな二人をよそに、話を続ける



「今、ここに居る『俺』はレプリカであるルークです。
そして、俺はアッシュから…被験者(オリジナル)のルークから七年という時間と居場所を奪った張本人だ。
俺はアッシュにその時間と居場所を返します。俺の存在と引き換えに」



そこまで言い終えると、当然二人は驚いて。顔を見合わせて、表情を曇らせた

「…たった七年の間だったけど、ありがとうございました」

ルークは、頭を下げる
長い髪が、肩を、服を滑り落ちる
ともに、床に滴り落ちる雫
ルークの、涙だった
―消えたくない
本当は、消えたくなんかない
そんな感情が溢れた
しかし、それももう叶わないけれど

「…前にも言ったでしょう? あなたも、私達のもう一人の息子だと。だから気に病むことはないのよ。さ、顔を上げて」

頬に触れ、ルークに顔を上げさせる
見た母上の表情は、柔らかく、慈愛に満ちていた
ルークは、その表情を見て余計に哀しいと思った
なにしろ、どうなっても明日になれば自分は誰にも会うことは出来なくなるのだ
それでも、そうなることを選んだのは自分だし、後悔はしていない
しかし、残してしまう人達に、申し訳がなさすぎて
待っていてくれた人達に、こんな別れ方しか出来ない自分が、情けない。そう思う
母の顔を見ながら、ルークは頬に触れる母の手に自分の手を重ねた

「ルーク。お前が消えて、アッシュと入れ代わるのはわかった。だが、我らはそうなることを選んだお前を責めたりしない」
「たぶん、そうなることを選んだあなたが一番、辛かったのでしょう? でも、忘れないで。あなたも、私達の息子。たとえ消えてしまうと言っても、あなたを覚えているわ」
「……ありがとう…父上、母上」

覚えている、その一言でだいぶ救われたような気がした
―たとえ、明日には自分がみんなの前から消えてしまうのだとしても、覚えてくれているのなら完全に消えてしまうことはないのだから
ルークは涙を拭い、重ねた母の手を握り締めた























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