「…もう戻るか。皆待ってる」
「……えぇ」

ルークがティアの方へ振り返り、手を差し出す
最初、ティアは少し驚いた顔をしていたが、すぐに微笑み、差し出された手を取って
ゆっくりと、上へと通じるリフトの方へ歩いていく

「…ルーク」

途中、ふとティアがルークを呼び止める
その声に、ルークは不思議そうながらも振り返り、ティアを見る
ティアの、浮かべている表情がとても嬉しそうな、はにかんだような笑みだったのには驚いたようだが、すぐに同じように笑う
ルークの方は、少し困ったような、哀しそうな、そんな笑みだったが

「…前に…私が言ったこと、覚えてる?」
「前?」

ティアの言葉が、いつを指すのか分からず、首を傾げるルーク
ティアはそれを予測していたのだろう、小さく頷き、口を開く

「兄さんと闘う前の夜、あなたにアルビオールの上で」
「…あぁ」

そう言えば、と思う
その日…―ルークとティアは二人で話していたのだ
月が夜闇を照らす、海に浮かべたアルビオールの上で
闘いを終えた後の世界のことも、ルークの乖離しかけている体が保つかどうかも
その時、ルークがポツリと一言呟いた言葉があった
二人して幸せだと思うその瞬間を、「…『今』が一番幸せなんかじゃない、って言えればいいのに」と
そのことか、とやっとティアの言葉の意味が分かり、頷く

「あなたは今も、あの時が一番幸せだった、って思ってる?」

ティアの問いに、ルークは素直に首を横に振った
ルークのその仕草に、ティアは少し安堵したような表情
ルークは今、本当にあの時が一番幸せだった、などと思っていなかった
むしろ、帰って来て、今自分の隣にティアが居るというだけで、あの時より『今』の方が幸せだと感じていた

「あの時は、『先』がないと思ってたからな。でも今は、俺はこうして『此処』に居る。ティアの、おかげだよ。ありがとう」
「私は、待ってただけだもの。むしろ、私の方があなたにお礼が言いたいの。帰って来てくれたことに」

ティアの、無垢な笑顔にルークはまた困ったような、哀しそうな表情をする
さっきのは、ノワールのことに対してのことだと思っていたティアは首を傾げて
ルークは、その表情を隠すためか、ティアを抱き締めて

「ティア、俺さ…」

抱き締めたまま、ティアの耳元でルークが囁く
その声はとても小さくて、今にも消え入りそうなくらいにか細くて
何かに怯えているような印象さえ受ける

「ルーク?」

ティアが問い返すが、何も言わない
何も言わないが、抱き締めた腕の力が強くなり、ティアは顔を歪めた

「ル、ルークっ。痛いわ…」
「あ、ごめん」

ティアの言葉に、ルークは我にかえり、ティアを解放して
しかし、当のルークはどこか名残惜しそうな表情をしている
そんなルークの行動といい、態度といい、ティアはおかしいと思うが、帰って来てまだそう時間も経っている訳じゃないので、
自分が本当に帰って来たのだと、確認でもしているのだろうと思った
そうだとすれば、苦しくても抱き締められることを苦には思えなくなって
今度は自分からルークを抱き締めるティア

「…ティ、ティア?」

今しがた放したばかりだか、ティアから抱きついてきたことに、ルークは戸惑いを見せて
ルークの手が、行き場を求めるように空中を彷徨う

「…ティア。何か言ってくれないと俺困るんだけど…」
「…この状況で何か言う必要があるかしら」
「………ごもっともで」

行き場を失っていた手を、ティアの背に回す
そして、今度は優しく、それでもしっかりとティアを抱き締めた
この時が、『二人』にとっての一番幸せな時間だったのかも知れない

「…ルーク」

しばらく抱き合って、長くなりそうだった沈黙を破ったのはティア
名前を呼ばれて、ルークはティアをはなし、見る

「そろそろ行かないと本当に皆を待たせてしまうから、行きましょうか」
「あぁ」

どのくらい抱き合っていたのか
そんなに時間は経ってはいないと思う
しかし、二人にとってこの時間はとてつもなく長く感じたが
どちらともなく、どこか名残惜しそうに離れた

「行きましょう」
「わかってるって。ほら」

苦笑しながら、ルークはティアに手を差し出す
ティアはその手を取り、やっとリフトに乗り込んだ
ガコン、という機械音が鳴り、リフトが動き出す
最低限の柵しかないそのリフトからは、昇るにつれてこの大きなバチカルの街が一望出来た
下から見上げた圧倒的な存在感もさることながら、上から見る少し淋しげにも感じる景観は旅をしていた頃とまったく変わらない
だが、

「…もうすぐ…」

ルークがボソリと呟く
その言葉が聞こえたのか、ティアがルークを見て首を傾げる

「何か言った? ルーク」

しかし、言った内容までは聞こえてはいなかったようで
ルークは安心したような表情を浮かべつつ、首を横に降った

「いや、何も」
「変なルーク」

ティアがやんわりと、笑う
ルークも、前に同じようなことがあったのを思い出し、笑う
そして、どちらともなく、自然に顔を近づけていく

「…邪魔だったかな」

ふと、声がして動きが止まる
声がした方を見ると、二人を呼びに行こうとしていたのか、先にルークの屋敷へ戻っていたガイがいて
リフトはいつの間にやら最上層へと着いていたらしく、運が良いのか悪いのか、鉢合わせしてしまったようで
ルークは硬直、ティアは真っ赤になりながらルークから離れて

「そんなに驚くこともないだろ。しかし、ここまで上がって来たなら呼びに行くのは野暮だったかな。邪魔者は退散するから、もう少しくらい二人の時間を楽しんでこいよ」

二人の時間、という単語に、二人ともが違う反応を見せる
ルークはどこか嬉しそうでもあり、哀しそうな、笑み
ティアは、真っ赤な顔をますます紅潮させ、うつ向く
ルークの表情には少し疑問を覚えたが、ガイは微笑み、踵をかえした

「ごゆっくり」

戻りかけたところで、一度だけ振り向き、言う
今度は二人共がはにかんだような、笑みを浮かべた

「…どうする?」

沈黙しそうだったその空気の中、先に口を開いたのはルークだった
その言葉にティアが顔を上げると、ルークは少し照れくさそうに苦笑いして
それにティアもつられながらも、ルークの腕を取る

「もう少しだけ、ここで」

腕を掴みながら、ティアが上目使いに言う。そのティアの仕草に、ルークは少し頬を染めて
しかし、ティアにはなぜ赤くなるのかわかっていないようで、首を傾げる
まぁ、ルークにとってはその心理を知られないほうが好都合だから、苦笑いして首を横に振って
ティアはますます首を傾げて顔をしかめる。それにルークはますます苦笑い
そして、次の瞬間には二人とも笑う

「…ティア。俺、さ…」
「…?」

笑っていたはずの、ルークの表情が変わる。先ほどとは打って変わり、真剣な表情をして
何事がと、ティアはルークを見上げる
しかし、ルーク何も言おうとはせず、苦笑しているだけで
だが、そのルークの表情がただ苦笑しているだけに見えなくて
何を考えているのかは皆目わからないが、そのあまりの悲痛さに思わずティアはルークの頬に自分の手を持っていき、触れる
ティアの手がルークの頬に触れた一瞬、ルークが少しピクリと反応したが、すぐにルークはティアの手に自分の手を重ねて

「…どうか、したの?」

ティアは上目使いに尋ねる
ルークはティアの問いに答えるでもなく、ただティアを見つめていた

「…いや、何でもない。それより、そろそろ屋敷に戻ろう。みんな待ってる」
「え、えぇ…」

ティアはルークのおかしな行動が、なにを暗示しているのか、わからなかった
この時、もしルークに何かしら問うていたら、どうなっていただろうか
ティアは不安を払い退けるように、ルークの腕に抱きつく
いつになく、優しく、それでいて哀しげに微笑むルークの表情を、見上げながら




























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