「…ルーク、只今戻りました」


城の、小部屋の前
そこは、この城の主である王の部屋だ
確か今は王だけがこの私室を使っていると聞いた
まあ、王が一人でいる時間帯を選んだのだけれど

「…入りなさい」

低い、声が響いた
その声を合図とするようにルークは扉を開け、中へと足を踏み入れる

「…叔父上…」

懐かしいその人を見て、思わず呟いた
かなり小さな声で言ったはずが、聞こえていたらしく、王は微笑む

「…本当に戻ってきたのだな、ルーク」

ナタリアの言ったことが信じられなかったからこその言葉だった
確かに、一度死んだとされた人間が戻ってくれば、驚きもするだろう
けれど、実際自分はここに戻って来ている
それは変えようのない事実であり、現実

「…はい。叔父上にも、母上、父上にも心配をかけました」

とりあえず、心配をかけていたことに変わりはない
詫びると同時に感謝の意を込めて、お辞儀をする

「頭を上げなさい、ルーク。帰って来てくれただけで、お主の両親も慶んでいただろう。私も、同じ気持ちだ」
「はい、叔父上」

少しギクシャクした空気だったのが、和らいだ気がした

「…もう少し、こっちに寄ってきて顔を見せてくれないか」
「はい」

躊躇いもなく足が進む
さっきまでとは大違いの軽さだ

「…少し見ぬ間に背が伸びたか?」
「…はい。俺自身、多少目線の違いに驚いてます」

あまり、変わってはいないと思っていたが、やはり身長は少し伸びていて
自分自身、驚くくらい、目線が高くなっていた
まだ、ガイほどではないが、高くなっていると思っている
意識を失う前は171だった身長は、多分180近くいっていると目算できた

「…これから、大変になるだろうが、頑張りなさい。ルーク」
「ありがとうございます、叔父上」











「…おや、ルーク。こんな所で何を?」

王の私室を出てすぐ
向こうから歩いてくる人影

「…それはこっちの台詞だよ。ジェイドこそ王室に何の用―」

ジェイド、と呼んだその人影は自分より一回りくらい背の高い、軍服に身を包んだ男
旅を共にした仲間の一人だ
その、ジェイドに質問を返す

「質問に質問で返すのは良くありませんねぇ。前にも言ったはずですよ?」

茶化すように返されて、そういえばと思い出す
旅の途中でも、同じようなことがあった
もう、話の内容は覚えていないものの、そんなことがあったことだけは覚えている

「…相変わらずだよな。ジェイドって」
「…そうですか? あの旅で、私もかなり変わったと思っているのですが…残念ですねぇ」

肩を竦めて見せ、ジェイドは言う

「…何処が変わったって言うんだよ」
「…さて、何処でしょうねぇ」

疑い深げに、ジェイドに問うてみると、また肩を竦めた
訊いたのはこちらだが、逆に問い返されたみたいだ

「…結局、分からないのか」

呆れたというより、どことなくガッカリとした感情を覚えながら言う
ジェイドは、肯定も否定もしない

「…とりあえず、叔父上に用事だろ。私室にいるから護衛兵にでも取り成してもらえよ」
「えぇ、そうさせて貰いますよ」



結局、答えも出さず、別れた







「…私が変わったのは、多分人としての考え方でしょうね。…ルークの、おかげですよ」







擦れ違いざまに、ジェイドが呟いた言葉は、聞き取れてはいなかった









END



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