「…ティア…」
「…何? ナタリア」

話しかけてくる声は、少し沈んで聞こえた
心配なのだ、そう思う

「…本当に、良かったのですか?」
「…ルークの事?」

率直な物言いに、少し戸惑い、頷いた
彼女は、誰よりも彼―ルークのことを心配しているはずだ
その彼を一人残して、自分だけここに戻ってきたことを、後悔しているのではないか、そう思えて仕方ない
ただ、彼女はそう言った感情を外に曝け出すような人ではないから、余計に心配になるのだ

「…傍に、居たかったのではなくて?」

彼女の、ティアの肩が揺れた
図星だったのだろう
けれど、表情には微塵もそんな素振りを見せなかった

「…居たくなかった、といえば嘘になるわ」

ゆっくりと、ティアが口を開いた
どこか、遠くを見つめるように空を見上げる

「…でも、約束したから…」

ティアは、ゆっくりと瞳を閉じた

「…ティア」

声がして、その方向へと振り向いた
そこの居たのは、長身痩躯の毅然とした男性

「…大佐?」

首を傾げるとその男性―ジェイドは持っていたものをティアに渡す

「…これは…」
「…ルークの日記です。荷物を整理していたら出てきました。それは、あなたが持っているのが一番いいでしょう」

ボロボロになった表紙
ゆっくりと開くと、その中には乱暴な字で日記が綴られていた
ティアと会って間もない頃の印象とか、その日の出来事、他愛の無い話の内容
どれもこれも、思い出深い

「…ティア…」
「…ぇ、あ…な、んで…」

思わず、涙を零していた
いままで溜め込んでいた分、溢れ出したかのように
止め処なく流れる涙に、本人さえもどうしたら良いのか分からず、目を擦る

「…ティア」

目を擦っては痛む、とナタリアがハンカチで涙を拭った

「…ごめんなさい、ナタリア…泣くつもりは、無かったのに…」

「…いいですわ。泣きたい時は泣いてください。あなた一人、溜め込む必要などないのですから」

言葉にならない、想いが溢れ出した

「…ごめんなさい、ナタリア。もう、大丈夫」

落ち着いて、涙を拭った

少し腫れてしまったか、と思いつつ、ナタリアを見る
ナタリアは優しい笑顔でティアを見つめながら、首を横に振った

「…いいのですわ。仲間でしょう?」
「…ええ、そうね。ありがとう」

笑って見せると、ナタリアは満足したように頷いて

「…あら、ティア。日記の最後のページに、何か書いてありますわ」
「…え?」

言われて、落ちたときに開いたのであろうそのページを見る

「…っ、ルーク…!」

見て、驚いたのは、そのページに書かれていた言葉に対してだ
見るかどうかも分からないその日記の最後のページに書かれたその一言

「…ばかぁ…っ」

止まっていたはずの涙が、また流れた








『…見るかは分からないけど、ここに記しておくことにする。
俺は、ティアに会えて良かった。怒られてばっかだったけど、本当はそうやってちゃんと向かい合って話してくれること、嬉しかった。
皆が離れていった時も、ティアは残ってくれた事だって、全て。
だけど、面と向かって言えそうにはないから…』











と、区切るように止められた文字
そして、その下には何度も消したような跡の上に書かれた、彼にしてはとてもきれいな文字があった





『ありがとう。それと、心配ばっかかけてゴメン』






そして、更に下に書かれた、この一言















『大好きだよ』










「…なんで、もっと早く言ってくれなかったの…」



あなたは、もう居ないのに


END
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