「…兄さん…」

ひとり、兄の墓前に立つ
その墓の周りには、以前から咲いていたセレニアの花が凛と誇るようにあった
風も、建物であるこの場所には吹かず、ただただそこで咲いていて
普段夜闇の中に咲くセレニアの花も、今となっては明るい日射しに照らされている


「もう、五年になるのね…兄さんには見えてるかしら?この今の世界が…」


預言(スコア)がなくなった今でも、世界はちゃんと、ゆっくりではあるけれど、確実に進んでいた
兄が、預言(スコア)を失くし、レプリカで溢れさせようとした世界は、見違えるくらい良くなった、と言えるのだろう
見ているかは定かではないものの、呟かずにはいられなくて

「…ありがとう…本当にありがとう。兄さん…」

ありがとう、と言うのはそのままの意味で
自然に涙が溢れて、それが溢れていくのを、止めないでいた




「…ティア?」


急に後ろから声をかけられて、思わず振り向いてしまって
その声をかけた人がルークだったのにも、驚いて
ルーク自身もティアの涙に驚いたようで、目を丸くしていた

「…こ、これは何でもないの、ルーク」

グイ、と涙を拭く
ルークはハッと我に返り、ティアに近付く
乱暴に涙を拭うティアの腕を取り、代わりに優しく涙を拭った

「そんな乱暴に拭いたら目腫れるだろ」
「…あ、ありがとう」

ある程度拭くと、ルークが言った
ティアは顔を赤くしながら頷き、礼を言う

「…で、」
「え?」

ルークが尋ねた
一瞬、何を尋ねられたのか解らず、目を丸くした
すると、ルークは苦笑した

「なんで泣いてたんだ?」

さっきの言葉の続きらしい
ティアはその言葉でやっと気付いたのか、今度はティアが苦笑した

「…兄さんに、話しかけてたの。ただそれだけよ」

と言うティアの表情は少し哀しげで
何を話しかけていたのか、とは訊けなかった


「…兄さんに、お礼を言ってたの。兄さんがいなきゃ、この世界を創り上げることなんて到底、出来なかったでしょう?」


しばらくして、ルークが聞けなかった答えを、ティアが呟く
なぜそれを言ったのかはわからないが、ティアはルークの方へと視線を向けて
その表情が、「これが訊きたかったんでしょう?」と言わんばかりに苦笑していた
ルークはその表情に、苦笑するしかなく

「…そうだな。師匠(せんせい)には感謝しなきゃならないことが山ほどあるもんな」

ヴァンの墓へと視線を向ける
セレニアの花と並ぶように、ヴァンの墓は凄然と佇んで
外から入ってくる太陽の光を、表面が反射している
その反射光に目を細め、ルークは思う
確かに、ヴァンがいなければ自分は生まれてすらいなかった
ヴァンがいなければ、ティアとも出逢うこともなかった
それらを考えると、感謝すべきなのだろうと思う




「…ありがとう、師匠(せんせい)




そう、ルークが呟くと、ティアが隣で笑う
願わくは、これから先の未来が、いつまでも平和であってくれるように見守っていて欲しい
そう、ヴァンが思っていてくれれば良いと思った







END


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