「…ヴェイグ、起きて。ねぇ、ヴェイグ」

朝日が差し込み、小鳥がさえずる声がする
朝食の匂いだろうか、良い香りが鼻をついた
そんな部屋で未だに寝ている青年―ヴェイグを、おそらく同い年の少女―クレアが起こしにかかっていた

「…クレア…?」
「早く起きて、朝食が冷めるわ」
「…あぁ…」

醒めきらない思考ながら、まだ眠りたい気持ちを押し殺して体を持ち上げた
まだ空ろな目をしているヴェイグを、クレアは着替えるように促し、忙しそうにパタパタと階段を上がっていってしまった
重たそうにベッドから立ち上がり、ヴェイグは上にセーターに似たものを被り込む
そして、ゆっくりとした足取りで階段を上る

「おはよう…父さん、母さん」

そこでは、既に父が食卓につき、母とクレアは忙しく食事を運んでいた
ヴェイグの挨拶に、一同が「おはよう」と返す

「クレア、何か手伝えるか?」

ヴェイグが、まだ食事を運ぶのが終わりそうにない、とクレアに尋ねる
しかし、クレアは「すぐに終わるから大丈夫」と人当たりの良い笑顔を向けて言う

「…そうか」

ヴェイグはそれだけ返すと、自分の椅子を引いて座る
そして、ふとテーブルを見れば、いつもより少し豪華な食事が並んでいた
何も聞こうとはしないがどうしてこんな豪華な食事が並んでいるのか疑問を抱きつつ、クレアと母が食卓につくのを待つ
それほど待つことなく、クレアと母は食卓についた

「さぁ、いただきましょうか」

母の言葉に、父が見ていたものをたたみ、座り直した
そして、食べるのかと思えば、クレアがヴェイグを見、ヴェイグはクレアを見返した

「ヴェイグ、今日は何の日か憶えてる?」
「今日?」

ヴェイグは一瞬何の事か分からず、首を傾げた
そして、少し考える

「…俺が…此処に来た日…?」

確信もなく、半信半疑で言うと、クレアは頷く
それでこの食事か、と思いつつ、クレアを見ていた視線を母や父に向けてみる
二人は満足そうに笑っていた

「ヴェイグが私達の家族になった日だから、皆でお祝いしようって」
「―…ありがとう」

素直に、その言葉が口をついて出た
クレアも、両親も笑っている
と、そこに、

「はーい、ポプラおばさんの特製ピーチパイよー!」
「…!」

聞き慣れた、声が響いた
声のした、入り口の方へと視線が集まる
そこには、美味しそうに湯気を出しながら、良い匂いを放つピーチパイを持ったガジュマの女性―ポプラおばさんが立っていた
ポプラおばさんは近付いてきて、手に持つそれをテーブルに乗せる

「…ポプラ…おばさん?」

なぜ、とでも言いたげな表情のヴェイグ

「ほら、ヴェイグちゃんの大好きなおばさん特製ピーチパイ。
今日は特別な日だからおばさんはりきって沢山焼いてきたわ。いっぱい食べなさいっ!!」

いつもの高く、明るい声
ヴェイグは不思議がりながらも、好物であるそれに手をつける

「…なんかね、ヴェイグが私の家族になった日は、この村の一員にもなったって事でしょう?皆に言ったら…」

クレアが少し苦笑気味に言う
その言葉の先が手に取るように分かって、ヴェイグも苦笑する

「…それでね、ヴェイグ。これを食べ終わったら集会所に行かなきゃならないから、早く食べて行きましょ?」
「…あぁ、わかった」

断る理由もないので、頷いた

「…いってきます」
「お父さん、お母さん、ちょっといってくるね」
「いってらっしゃい」

食事も食べ終わり、両親に見送られながら集会所へと向かう
クレアは、ヴェイグの少し前を歩いていた

「…クレア」
「何?ヴェイグ」

ヴェイグが引き止めると、クレアは金色の長い髪をたなびかせ、振り向く
そして、不思議そうに首を傾げ、ヴェイグに尋ねた

「どうして、急に俺が此処に来た日を祝おうなんて思ったりしたんだ?」

あの旅が始まるまで、誕生日や他の行事は祝ったことがあった
しかし、自分が此処に来た日を祝ったことなど、なかったのだ
クレアはヴェイグの質問に、きょとんとしたかと思うと、笑う

「…大切だって事、改めて気付いたからよ」

今度は、ヴェイグがきょとんとする番で
意味がわかった途端に、ヴェイグは顔が染まる
つられたのか、もとからそうなっていたのか、クレアの頬も少し赤かった

「さ、早く行きましょ?皆が待ってるわ」

顔が赤いのを隠すかのように、クレアは踵を翻して歩き始める

「…あぁ」

そう、返事をして、先に歩き始めたクレアの横についた
そんなにかからずして、集会所についた頃には、二人は仲良く手を繋いでいたとか、いないとか









END





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