41:身長差
横に並ぶと、嫌でも思い知らされる。 彼女との、差を。
「あんた、本当に馬鹿ね。覚えが悪すぎるわよ」 今日も、いつものように自ら預かっている子供達を引き連れて、その黒い、ウェーブのかかった髪に折れた角を持つ女性―名前をヒルダという―はやってきていた。 なぜ罵られているかと言えば、先日教えてもらった、服の繕い方をまた訊いたからだ。 罵られても仕方ない、とは思う。もう五度目なのだから。 「違う。何度言ったらわかるのよ」 しかし、いくら五度も訊いたからとはいえ、ここまで罵るのはどうかと思うが…教えてもらっている身でそんなことを言えば恐ろしく鋭い勢いでカードが飛んで来ることだろう。だから言わないが。 「んなこと言ってもよぉ。こんなの男の俺にはムリだって」 「あんたは力以外に取り得ないものね」 「なんだとぉ!」
42:終始
43:命の灯火
44:月と星
45:キセキ
46:堕天使
47:勇者伝説
48:電話
49:鳥籠
50:金糸雀
51:窓の向こう
52:指先
53:約束
54:未来
「帰って来ないと思えば…こんなところで寝たら風邪引くじゃない」
しょうがないわね、と彼女は目の前で気持ち良そうに眠る息子―ラムダと、その隣で寄り添うように眠る女性―ソフィを見て溜め息混じりに呟いた。 しかし、言葉とは裏腹にその表情は優しい笑みを浮かべているのを見ると、怒っているわけではなく二人見つけたことに安心しているようだ。 彼女は二人の傍に膝をつき、ラムダの、彼女のソレと同じ色の髪を梳く。髪の色は彼女に似ているが、髪質は父親に似たのだろう、軟らかそうな髪が彼女の指の間を通っていった。 隣でその一部始終を見ていた僕はその微笑ましさにやんわりと微笑む。
「良いじゃないか、こうして見つかったんだから」
僕の隣にいる、ラムダの父親であるその人が彼女に向かって言った。 「そうだよ。それに、ソフィが一緒だったんだしね」 心配ないよ、と言いながら僕は彼女の前―ラムダとソフィを挟んで反対側に膝をついた。
「もう、二人してこの子に甘いんだから」
と彼女は苦笑気味に笑う。 そう言う割には怒る気もないように見える彼女に、僕は顔が綻ぶのを感じた。そして、彼女が抱き上げた息子を見る。
「最後に見た時より二人とも少し成長しているね」
起きる気配のないラムダとソフィを交互に見ながら、僕は思ったことを呟いた。最後に会ったのは半年ほど前ともなれば当たり前かもしれないけれど。
「この間、ラムダが半年で身長が4センチも伸びたって喜んでたわ。ソフィなんかたった1センチなのに大騒ぎ」 「そうそう。それで一日中何かと言うと身長が伸びた身長が伸びたってみんなに言い回っていたな」
おかげでラムダが成長したお祝いにってラントのみんなから山ほど贈り物がきたたんだ、と彼は苦笑した。隣で聴いていた僕は、それは大変だったね、と笑う。
「でも本当に気持ち良そうに寝てるわ、二人とも」
腕に抱いた我が子を見下ろして、彼女が呟く。 本当にこの二人を愛しんで言ったのだろう、その声音と表情はとても優しい"母親"そのものだ。 「そうだね」 彼女の言葉に対する返事をした僕も、つられて優しい声が出てしまうほどに。 それを、父親である彼はやはり優しい笑みを浮かべて見ているものだから、彼の方を見て手招きした。彼はゆっくりと膝を折り、彼女の隣に座る。
「私達がどれだけ探したかも知らないで、暢気なものよね」
そう思わない?と彼女が隣に座った彼に同意を求めるように言った。続けて、僕が来るから早く帰って来てねって言っておいたのに、と彼女は溜め息をつく。 彼は僕と顔を見合わせ苦笑したあと、もういいじゃないか、と彼女を宥めるように肩を叩いた。
「僕は君達の―もちろんソフィとラムダもだけど…顔を見たらすぐに戻るつもりだったんだ、気にしなくていいよ。それに起きていて、遊んでくれとせがまれたらまた戻れなくなっていたと思う」
ある意味この方が好都合だよ、と笑う。 というのも、前回訪れた時は今は眠っている二人―主にラムダ―に遊んでくれとせがまれて断りきれずに結局一日潰れたのだ。本来の目的をあまり果たせずに。 それを思い出したのか、二人はあの時は助かった、と笑う。
「…さて、そろそろ日も傾いてきたし、つれて帰るか」
少しずつ空が赤みを帯び始め、気温が下がり始める頃合い。ラムダが少し寒そうに体を縮こませ、母親の服に縋りついたのを見て、彼は立ち上がった。 そうね、と抱いていた我が子を腕に抱え直して、彼女も立ち上がる。 先に立ち上がった彼は、ソフィを背負うためにソフィをゆっくり持ち上げる。その手を、僕はやんわりと制して彼の手からソフィを自分の方へと寄せた。
「…リチャード?」
不思議そうに、彼が僕の名前を呼ぶ。
「…ソフィは、僕に背負わせてくれないか?」
こんなにも無防備に寝ている二人を次に見るのは少し先。今のこの合間にも、記憶に刻んでおきたかった。 本音を言えばラムダも抱きたいが、流石に二人は無理だし、かと言って母親に幸せそうにしがみついているラムダを引き剥がしてまで抱きたいと言うほど野暮でもない。 「別にいいが、見かけによらず重いぞ、ソフィは」 僕の意図を気づいたのか、彼はやんわりと微笑んで言う。 大丈夫、と意気込んでソフィを背におぶったけれど、予想以上の重みに足元がフラついた。 「…っと、本当に見かけより重い、ね…」 なんとか立ち上がって苦笑気味に呟くと、二人が笑う。 何かおかしなことでも言っただろうか。僕は唖然として二人を見ていると、
「陛下と同じことを、私も前に言ったことがあって」 「その時も、同じように俺が「見かけによらず重いぞ」って言ってたから」
つい思い出してしまって、と二人はくつくつと笑う。 そんなことがあったのか、と僕は思いながらソフィをよいしょと背負い直した。 そして、
「さ、行こうか」
と帰路についた。 後ろから、まだしばらく消えない笑い声を聴きながら。
* * *
少しだけ未来のお話。(EDムービーのすぐ後くらい) Gf発売前の作品なので少しおかしいところがあるのは見逃してください^^; ラムダは生まれ変わることができるならラント家に来るべきだと思うんです(キリッ
55:ソラノムコウ
56:盲目
57:帰る場所
58:タイセツなモノ
59:永遠の別れより
60:悪魔
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