1:記憶
2:願い
3:写真
4:居場所
5:人魚姫
6:双子
7:崩れ落ちそうな夢
8:声
9:手紙 side:α
「…さっきから何を書いているんだ?アルノー」
事は先程から何かを真剣に書いている事から始まる。 珍しく、青年―アルノーの方から「休憩にしよう」と言って来たのだが、何か熱心に書いていて上の空なのだった。 「…アルノー!」 「………」 先程から何度呼び掛けてもこの調子だ。 あまりにも沈黙しすぎて、どこか頭を打ったのではないかと思う。
「…そろそろ休憩も終わりたいのだがな…」
このままではしばらく動きそうにない。 諦めて待つことにして。
「…よしっ!終わり!!」
「…やっと終わったのか、アルノー」 かなり時間がかかったものだな、と思いながらそれを見る。 「…手紙…?」 お世辞にも上手いとは言いづらい字で書かれたソレ。 ラクウェルが不思議そうに尋ねると、アルノーは誇らしげに笑う。
「ジュードに、送ってやろうと思ってさ。心配、してるだろうし、あっちから俺達には届かないから」
「…そうか。…アルノー、まだ紙は残っているか? 私も、書きたい」 ラクウェルが、隣に座り込む。 アルノーは、自分が書いた手紙を荷物に入れ、紙を取りだし、渡した。
「ん。ラクウェルはどうせなら絵を描いて送ればいいよ。喜ぶぞ、ジュードとユウリィ。あんなに上手いんだから」
そこまで言って、アルノーはハッとした。 まだ描いた絵を見せたこともないのに、と言いたげにラクウェルがアルノーを睨む。
「…いつ、見たんだ」
とても、恐い。 いつも脇に構えている、剣を掴み、恐ろしいほどに威嚇してくるのだ。 アルノーは、冷や汗が背を伝うが、もはや気にする余裕もない。 「…ちょっ、ラクウェル、話聞け…っ」 「いつ、だ」 「この前、ラクウェルが木陰で寝てた時だよ。だが、不可抗力だかんな! 風で開いたのを見ちまったんだから!」 アルノーは声を張り上げ、弁解する。 信じてくれたのか、構えた剣を元に戻すラクウェル。
「絵は、まだ送らない」
「…何で」 穏やかな口調で、ラクウェルが言う。 アルノーは不思議そうに、問い返した。
「どうせなら、再会したときに渡したいのだ」
そう言い切ったラクウェルの顔は、とても―愛しげで。 アルノーは、その願いに似た想いは、とても儚いものだと思った。
「…さ、手紙を書いてしまおう」
その手紙が届くのは、まだ先の話…―
* * *
結局、込めた願いが叶うことはなかったけれど。 いつかまた、と想いは紡がれて、重なっていくんだと思います。
9:手紙 side:β
「…ジュード!」
「…ユウリィ」 声がしたと思い、振り向く。 まだ少し距離はあるが、数メートル先から、青い服をたなびかせた少女―ユウリィが走ってくるのが見えた。 ジュード、と呼ばれた少年は、走ってくるユウリィの方へと歩み寄る。ユウリィは、ジュードの目の前まで来ると、息を整えるように深呼吸した。 「どうしたの?そんなに慌てて」 息が整ったのを見計らうように、ジュードが尋ねる。
「…これが、ジュード宛てに」
差し出されたのは、一通の手紙。しかも、何だか乱暴に扱われた形跡があった。 何か、と差し出人を見ると、ジュードは目の色を変えた。 「…アルノーからだ」 呟くように言う。 ユウリィは頷き、ジュードが手紙を開けるのを待っている。
「―…治療法はまだ見付かってないみたいだ…」
封を開けて、中身を見たは良いが、がっかりした気分だった。 せっかく久し振りに仲間に会えるかと期待していたのだが。
「…まだ、会えないんだね…」
心底、がっかりしたようにジュードが呟く。 「…少しだけ、寂しいですね」 ユウリィの言葉に、ジュードが頷く。
「…あれ、まだ続きがある…」
読み終えたはずの手紙に、まだ一枚だけ、先があった。 間違えて紛れ込んだのか、とそれを見てみる。 「…ユウリィ」 「…アルノーさんらしいですね」 二人して、笑う。
その一枚だけの、最後のページには、
『必ず、逢いに行く』
と一言だけ書かれていた。
* * *
会える日を願う毎日。でも叶わぬ日々。 いつかまた会える日がそう遠くないことを祈りながら、手紙を手にするんでしょうね。
10:硝子
11:風の吹く場所
12:同じ空の下
「…もう、一年経ったんだね」
突然、ジュードが呟く。 隣で兄の残していったオルゴールを眺めていたユウリィは、ジュードの呟きに一瞬何の事だか解らず首を傾げた。 しかし、少し考えると、それが仲間との別れのことを示しているのだと気付く。 「…そう、ですね」 少なからず寂しさを感じて、返事が弱くなって。それに気付いたのか、ジュードが私の方を向いて苦笑する。
「まだ、見つかってないんだろうね」
顔見せてくれないんだから、と少し"大人"に近付いた表情を歪めた。 私はそれに何て言葉を返せば良いのか少し迷って。 「…大丈夫です」 切り出した言葉は、少し震えていた。 そのことをジュードが気付いたのかはわからない。 けれど、私の言葉に目を丸くしてこちらを見てきているから、気付いているかも知れないけれど。
「…きっとまた、いつか逢える日が来ます。今はまだその時ではないかも知れないけど…―どこか、同じ空の下で同じように想ってくれています」
言うと、ジュードは目をますます見開いて。 しばらくして、何かが吹っ切れたように笑い始めて。 私は少しムッとしたけれど、ジュードが笑ったことに安堵した。 「…そう、だといいな」 そう、呟いたジュードの表情は、とても穏やかだった
* * *
ED後、一年経過頃。 手紙が届いてからだと、半年くらいでしょうか。 逢えなくて少し寂しいジュード君。 成長してるはずなのに、まだまだお子様っぽいようです。うちのジュード君は。 逢えると信じてても、不安になるんですよね。
そんな心情を描きたかった
13:仮面
14:愛しい人
15:錆びた時計
16:止まり樹
17:止まらない涙
18:傍ら
19:見えない世界
20:確かな絆
「―ジュード君には言わないんだな」
さっきの、とニ・アケリアに戻りジュード達と合流したミラに、アルヴィンが後ろからポツリと呟く。 その声量はミラにしか聴こえないように言ったものだろう。少し先を歩く仲間たちは楽しそうになにやら談義していた。時折笑い声も聴こえ、まったくこちらの様子は知れていないのだとわかる。
「言う必要なかろう」
こちらも、半歩後ろを歩くアルヴィンにしか聴こえない声量で、ミラはアルヴィンの質問への返事をする。 ジュードはただでさえ他人の心配ばかりする性格だというのに、これ以上気をつかわせるようなことを言わずとも良い、とでも言うように。 「確かにそうだろうけど、」 何か言葉を続けるのかとミラは横目にアルヴィンを一瞥する。しかし、アルヴィンその先を口にする気配はない。代わりにジッとジュードの後ろ姿を見て、何かを考えているようで。 その、アルヴィンの視線が何を言わんとしているのか。それを感じ取ったのか、ミラはふっと笑う。 「…本当、おまえも大概にお節介だな、アルヴィン」 ジュードのことはいえまい、と付け足して。 アルヴィンはそれをさほど気にする様子もなく、「別に」と素っ気ない返事をする。ミラはそれにも浮かべた笑みを少し深いものにして、
「あの二人がアルクノアの生き残りだったとはいえ、あの頃の思い出が消えるわけでもない。今更そうだったことをジュードに言う必要はないさ」
目を伏せて、呟く。 その脳裏には何を浮かべてこの言葉を紡いだのか、それは誰にもわからない。
「―それに、今はあのガラス玉が私とジュードを繋いでくれている」
伏せていた目を開く。その目はジュードを見て細められた。とても、愛しいものを見るかのように。 その感情を、彼女が自覚しているのかは定かではないが。 そして、
「それ以上の意味など不要、だろう?」
不意をつく、不敵な笑み。 その言葉にアルヴィンは面喰らってしまい、ミラを見て固まった。しかしすぐに、つられたようにおなじく不敵な笑みを浮かべ、 「…ほんと、マクスウェル様はお強いことで」 こう、呟いた。 こうだからどんなことがあろうと退かないわけだ、そうアルヴィンは肩を竦めた。
* * *
サブイベント「ミラのペンダント」の後日談。 過去がどうあれ、現在はそのただのガラス玉が繋ぐ"想い"は変わらないんだろうな、と。
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