「…うわっ!?」






今日何度目かの失敗に、壁へ派手にぶつかった
痛みに顔を歪め、それに耐える
何度も打ち付けたため、痣も出来ているがもう気になってはいなかった

「…もう少し…もう少しなのに…!」

というのも、いまの彼は腕をなんとかしなくてはならなかった
左腕は今、彼を守るために霧となっているからだ
それをもとの、左腕であった形に戻すのは容易ではなく

「…っ…」

軋む関節、肌を伝う汗
もう、体が言うことを聞かなかった
いくら人並み外れているとは言え、休む間もなく作業を繰り返していたのではガタつくだろう


「…やっているようだな」


不意に声がして、現実へと引き戻された
誰だろう、と周りを見回した

「…バクさん…」

彼はここ、『黒の教団』中国支部の部長―バク・チャン
自分が生きているのも、彼やこの支部で働く人達のおかげで

「…ずいぶん熱心なことだな」

彼が、霧の中、ゆっくりとこちらへ近付いてくるのがわかる


「…早く、皆の所に帰らないとなりませんから。多分、死んでるって思ってるだろうし…」


立ち上がって、服の埃を軽く払う
その仕草をバクの目が追っていた

「…数日過ごしただけの教団へか?」

ポツリ、とバクは呟いた
一瞬、どう返せばいいものかと迷う





「…あそこが、ボクにとっての家だから、です」





短く、けれど分かりやすい言葉を並べた

「…ボクは、ここで立ち止まっている訳にはいかないんです」

待ってくれているだろう、仲間のもとへ、早く還りたい
涙を流しているかも知れない仲間に、早く自分の無事を伝えたい
そんな逸る気持ちが、抑えられなかった


「…だから」


言葉を区切って、顔をあげる
バクを見、今度は自分の腕を見て

「…腕を、治さなきゃならないんです」

決意も堅く、言ってのける
その意思は、既に固まっていた
自分のために流される涙も、血もいらない
――…ただ、前を見据えていくだけだ

「…後戻りはできなくなると知っていても、か?」







「…僕がこの腕を持って生まれた時から、既に後戻りはできなかったんですよ。だったら、進むだけです」







END
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