もう、何も残ってはいなかった。

―この世界には。

何処へ行っても、僕は一人だ。

―そう考えて。

―そう、考え続けて。






いつの日か、

いつの間にか、

それを当たり前としていた自分。






いっその事、滅んでしまえば良いと。

いっそ、このまま消えてしまおうかと。






この世界に何が残っているだろうか―――――…。
















「しばらくの間、此処に居なさい」

そう言われて、その場で立ち止まったままで。
僕は、物思いに耽っていた。

―失った者が大きかった。

自分の大切な人も、好きだった人達も。
皆自分を残して亡くなってしまったから。


「君、此処の人間じゃないね?」


そう話しかけてきた人は、僕より少し年上の人。
愛想が良いと言うか、人懐っこいと言うか。
とにかく、僕を引き連れて一軒の古屋へとやって来た。
古びた、一度強い風が吹けば倒れてしまいそうな古屋。
中で、何かガタンと大きな音がして、すぐにその人が出てきた。



「これを被って、ついておいで」



これまた古びたローブのような物を僕に渡して。
そして、そう言うとその人は僕の横をすり抜け、歩いて行ってしまう。
ついて来るかどうかは、自分に任せるらしい。
ついて行くにしても、僕がどうして必要だろうか。
ただの、みすぼらしいだけの少年が。

「…あのっ」

歩いて、一定の距離を取った所で、その人は停まっていた。
僕の声に気づくと、次の言葉を待つように首を傾げて。
その仕草に、少し言葉を詰まらせ、しかし、今更聞かない訳にもいかず。



「どうして、僕を連れて行こうとするの?」



疑問で仕方ない事を口にする。
すると、その人はその言葉を聞いた途端、笑う。
少しムッとして僕は口を尖らせた。

「簡単な事だよ。…君が、私に似ていたからさ」

何処がだろうか。
一緒にされたと言う苛立ちも露知らず、その人は僕に近寄って来て。
背の高いその人は、僕の前にしゃがみ込んだ。




「昔の私そっくりだ。だから、君を連れて行こうと思った。君は、とても荒み切って、この世界に居る意味をまだ知らない。それを知って貰いたいんだよ。私は」




クシャリ、と僕の頭を撫でる。
髪の毛がグシャグシャになるのも気にせずに。
けれど、その手がとても温かく、優しいと思った。

「こんな私じゃ、教えられる事はたかが知れているだろうけど」

苦笑し、その人は立ち上がる。
僕は、どうしていいのか分からず、立ち尽くしたままで。




「さて、君はついて来るかい?」




仕方がないと言えばそれまでだろうけど僕は頷き、その人の後を追った。























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送