雨が降っている
雨音が、激しく地面を打っている

この雨が、この雨音が、全てを消してくれればいいと思う

そして、そんな風に考えていた中で、俺は君と出逢った




「…怪我をしてるみたいですが、大丈夫ですか?」

雨音が激しさを更に増していく中、声をかけられた
上がる息をなんとか抑えながら、声の主を見る
見掛け、二十歳前後の女性だった
心配そうにこちらを見つめながら、返事を待つ

「…気にしなくていい、通り過ぎてくれて構わないよ」
「…でも」

やはり心配なのか表情を歪めた
そりゃ、肩を押さえて息を荒げていれば心配になるのはいなめないだろう
しかも、その押さえている肩口から滲む微かな血を見れば尚更だ

「…いいから。早くここから離れて、家へ帰るんだ。巻き込みたくない」

伏せた顔をゆっくり上げる
その顔には苦痛の色が浮かんでいるだろう

「怪我人を放っておけません…」
「…だから」

今までの話を聞いていなかったのか、と聞きそうになって止まる
穏やかな、その女性の表情が聞かせてはくれなかった

「手当てくらい、させてください。そのままではいずれ見つかってしまいます」

結局、押し切られてしまい、仕方なくついていく
傘に入るように言われ、もう濡れているからこれ以上濡れても構わない、と言ったがやはり押し切られた
出来るだけ彼女が濡れないようにしては見るが、あまりそれも意味をなさず

「タオルを取って来ますね」

彼女の家に辿り着いた時には、半身濡れていた
溜め息を洩らし、滴る水滴を眺める
何かを映し出しそうなくらい透き通った水は、自分の指を滑り落ちた

「…どうぞ」
「…ありがとう」

差し出されたタオルを受け取り、濡れた髪と体を拭く
タオルは乾燥させたばかりなのか、まだ温かい

「…あの」

ふと、おずおずと話し掛けてくる女性の声
タオルを忙しく動かしていた手を止めて、顔を上げる

「…何?」

なるべく怖がらせないように、優しく問う
彼女は、別段怖がっている様子はない
「タオルで拭くだけでは風邪をひいてしまいますから、暖かい暖炉の方に…」
「……わかった」

別に、自分が風邪をひくなんて有り得ないのだが
とりあえず、暖炉の方にゆっくりと近付いた
温かい熱気が、自分の周りに集まっているのがわかる

「………」

その暖炉の温もりに、体の疲れが溢れたように思う
口をきく気力すら、どこかへと消え失せていた

「…眠っても大丈夫ですよ、誰もここには来れませんから」
「…いや、いい」

誰も来ないから、と言う問題ではない
ただ、今眠ってしまえば、二度と起き上がれないような錯覚を覚えるのだ
だから、眠ってはならない、そう自身に言い聞かせた

「体が、限界を訴えてます。これ以上は起きてられないと思いますよ…?」

分かってはいる
分かってはいるのだ
限界をとうに切って、体が悲鳴をあげているのを

「だけど、」
「眠ってください。本当の意味でここには私が招いた人以外は誰も来れませんから…」

彼女が、自分の頬に触れ、逆の手で瞼を下ろしていく
ゆっくりと、そのまま眠りへと誘われ、意識を手放した

「…おやすみなさい」
「………」

最後に聞いたこの言葉は、とても心地良かった













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